MENU

なぜDX投資は成果に届かないのか|ドイツの成熟度指標で測る

設備にセンサーを付けた。日報をタブレットにした。
生産管理システムも入れた。それでも、自社のDXが前に進んだのかどうかが分からない。
そういう話を聞くことがあります。

この感覚は、少数派のものではありません。
中小企業基盤整備機構が2025年12月5日から18日にかけて全国の中小企業1,000社に行った調査では、
DXに「既に取組んでいる」と答えた企業は189社でした。
そのうち18.5%が、課題として「具体的な効果や成果が見えない」を挙げています
取り組んでいる当事者が、効果を見つけられないでいる、ということです。

同じ189社について、もう一つの数字があります。
DX推進のビジョンや経営戦略・ロードマップが「未策定」の企業が29.6%を占めています。
取り組んではいるが、全体像を描かないまま個別の道具を入れている会社が、3割近くあることになります。

出典:中小企業のDX推進に関する調査(2025年)アンケート調査報告書(中小企業基盤整備機構・2026年8月20日確認。調査期間2025年12月5日〜18日、全国の中小企業1,000社。うち製造業500社)

効果が見えないのは、入れた道具が悪かったからとは限りません。
自社が今どこにいて、次にどこへ進むのかを測る物差しを持っていない。
だから、進んだかどうかを判定できない。
この記事では、その物差しとしてドイツで作られた体系を紹介します。

目次

道具を入れても、DXの段階は上がらない

ドイツが2017年に作った物差し

acatech(ドイツ国立科学工学アカデミー)が2017年に公表した
「Industrie 4.0 Maturity Index」という報告書があります。
Maturity Index は成熟度指標という意味で、
製造業が自社のデジタル化の現在地を判定し、
次の一手を決めるための体系です。
2020年に更新版が出ています。

この体系は、企業の状態を6つの段階で測ります。
段階1がコンピュータ化、段階2が接続、段階3が可視化、段階4が透明化、段階5が予測能力、段階6が適応能力です。ここで一つ、日本での使われ方と食い違う点があります。
原典は、段階1と段階2をデジタル化と呼び、Industrie 4.0 そのものではなく、その前提条件だと位置づけています
つながっただけでは、まだ入口だという扱いです。

そして原典は、この体系を作った理由を最初に書いています。
多くの企業が Industrie 4.0 をデジタル化や完全自動化のことだと取り違えていること。
そして、共通の目標を追わずに孤立した単発の施策ばかりが実施されていること
この2点が、投資が成果に結びつかない原因として挙げられています。

砂糖さん

でも、センサーを付けてデータが取れるようになれば、段階は上がりますよね?

MATSU

そこが、この体系のいちばん面白いところです。上がらない場合があります。原典が挙げている例を見てください。

生産管理システムに届かなかったRFIDの位置情報

原典の脚注に、実際の取り組みが載っています。
ある機械で使う工具に、それまで手作業でラベルを貼っていた会社が、
RFIDラベルに切り替えました。
RFIDは電波でIDを読み取る仕組みで、一つひとつを離れた場所から識別できます。
これで工具の位置が追えるようになり、
それぞれの場所に「使用中」「保管中」「再研磨中」という状態が結びつきました。

ここまでは、順調に見えます。ところが原典はこう続けます。
この情報は、その会社の MES に入力されなかった
MES(Manufacturing Execution System)は製造実行システムのことで、
どの製番をどの工程でいつ作ったかを管理する仕組みです。
工具の状態は分かるようになったのに、
その情報が製造の記録と結びつかなかった、ということです。

この会社は、RFIDという新しい道具を導入しています。
位置も追えています。それでも、判定は変わりません。
設備の側は進みましたが、情報システムの側は取り残されたままです。
原典はこれを、自動識別の潜在力を使い切らずに、
既存の物の棚卸しで終わってしまった例として挙げています。

出典:Industrie 4.0 Maturity Index. Managing the Digital Transformation of Companies(acatech STUDY・2017年・2026年8月20日確認。英語)

物差しが無いと、提案の良し悪しを判定できない

この例が示しているのは、道具の性能の話ではありません。
RFIDは正しく動いています。
問題は、その情報が会社のどこへ流れるかが設計されていなかったことです。
設計されていなければ、いくら良い道具を入れても、会社の状態は前の段階にとどまります。

道具を買うことと、会社の段階が上がることは、別の出来事です。

ここから、提案を受ける側の話になります。
稼働監視、生産管理システム、AI外観検査。
どの提案も、会社のどこか一部分を良くするものです。
その一部分が、自社の全体像のどこに当たるのかを指させれば、
その提案が今の自社に効くかどうかを自分で判定できます
逆に、指させる図を持っていなければ、
判定の材料が価格と説明の分かりやすさしか残りません。

冒頭に挙げた、ロードマップ未策定が29.6%という数字は、
この図を持っていない状態を指していると読めます。
次の節では、その図にあたる体系の全体像を見ていきます。

DXの進み具合をはかる体系の全体像

この体系は、6つの段階だけでできているわけではありません。
会社を4つの領域に分け、それぞれの領域について段階を判定します。
さらにその判定を、会社の機能ごとに別々に行います。
まず全体の形を見ておきます。

横に4つの領域、縦に6つの段階を取った格子が1枚あり、
それが機能の数だけ重なっている、という形です。
自社の状態は、この格子のどこが埋まっているかで表されます。

会社を分ける4つの領域

4つの領域は、設備などのリソース、情報システム、組織構造、企業文化です。
前の2つは技術の話ですが、後ろの2つは技術ではありません
誰が何を決めてよいかという規則と、現場が何を当たり前と考えているかという価値観が、
技術と同じ重さで並んでいます。

それぞれの領域には、さらに2つずつの原理が置かれています。
原理ごとに成熟度を出し、2つを合わせてその領域の判定とする、という積み上げ方です。
原理の下には、具体的な能力の一覧が続きます。

4つの領域と、それぞれの2つの原理
  • リソース … デジタル能力/構造化されたコミュニケーション
  • 情報システム … 自己学習型の情報処理/情報システムの統合
  • 組織構造 … 有機的な社内組織/価値ネットワーク内の動的な協働
  • 企業文化 … 変化への意欲/社会的協働

名前だけを見ると硬いのですが、中身は現場の話です。
たとえば組織構造の「有機的な社内組織」には、
誰にどこまで決めさせるかという意思決定権限の管理が含まれます。
企業文化の「変化への意欲」には、誤りの価値を認めること、
つまり不良が出たときに責任の追及ではなく原因の理解に集中できるかが含まれます。

出典:Industrie 4.0 Maturity Index(Plattform Industrie 4.0・2026年8月20日確認。英語)

段階が上がると、答えられる問いが増える

6つの段階は、導入した道具の高度さではなく、その会社が何に答えられるかで並んでいます。
原典は各段階に問いを対応させています。

スクロールできます
段階答えられるようになること
1 コンピュータ化(前提)情報技術が、互いに切り離されたまま使われている
2 接続(前提)業務のアプリがつながり、業務の流れを写している
3 可視化今、何が起きているか
4 透明化なぜ、それが起きているか
5 予測能力これから、何が起きるか
6 適応能力人が指示しなくても、応答できるか

段階3と段階4の差が、実務では大きく効きます。
ダッシュボードで稼働率が見えるのは段階3です。
不良率が悪化したときに、
材料ロット・機械・作業者・気温を突き合わせて原因に到達できるかどうかが段階4です。
グラフの枚数を増やしても段階4にはなりません。
複数のデータが同じ番号で結びついて初めて、原因にたどり着けます。

工場全体でまとめて判定しなくてよい

この体系には、もう一つの軸があります。
開発、生産、物流、サービス、マーケティング&販売という5つの機能領域です。
4領域の判定は、この機能ごとに別々に行います
同じ会社でも、生産は段階3、物流は段階1、ということが起こりますし、
原典はそれを異常な状態として扱っていません。

これは、判定する側にとって現実的な救いになります。
「うちの工場は全体でどうなのか」と考え始めると、
範囲が広すぎて手が止まります。
生産だけ、あるいは物流だけを切り出して判定してよい、
と決まっていれば、自分の担当範囲から始められます。

判定は、自分が説明できる範囲から始めてかまいません。

ここまでで、格子の形が決まりました。
次の節では、この格子の上で悪い状態と良い状態がどう見えるのかを比べます。

律速を作る会社、作らない会社

4つの領域を判定すると、たいてい高さが揃いません。
ここで効いてくるのが、原典が繰り返し述べている点です。
4つの領域は互いに依存していて、整合していなければならない
どれか一つが遅れていると、その領域が会社全体の速度を決めます。
化学の言葉を借りれば律速段階です。

センサーは付いたのに、保全の起票が手書きのまま

原典が挙げている、金属加工業の例です。
古い機械に固体伝播音センサーを取り付け、工具の摩耗を監視しました。
測定と分析を重ねた結果、伝播音と工具の残存寿命に相関があることまで突き止めています。
予知保全の入口に立った状態です。

ところが、この仕組みは閉じた制御ループとして作られ、社内のネットワークと統合されませんでした。
その結果、保全作業の起票は手作業のまま残りました
摩耗が分かっても、次に誰が何をするかは、人が気づいて紙に書くところからやり直しです。

上の図の上段が、この状態です。
設備の列は高く伸びていますが、情報システムの列が段階1で止まっています。
破線が会社全体の実力を示していて、いくら左端の列が高くても、破線は最も低い列の高さに引かれます
下段は4本が段階3で揃った状態で、こちらは次の段階への投資が意味を持ちます。

数字は見えているのに、誰も動かない

もう一つ、別の場所が律速になる型があります。
ここからは原典に載っている事例ではなく、
ありそうな状況として組み立てたものです。

設備からデータが自動で入り、全部門が同じ数字を見ている工場を考えます。
技術の側は段階3に達しています。それでも改善が始まりません。
現場が異常に気づいても、工程を変える判断は工場長に上げる決まりになっている。
そして評価されるのは月の生産個数だけで、
段取り時間を縮めても不良を減らしても、誰の成績にも表れません。

この工場で止まっているのは、設備でも情報システムでもありません。組織構造です。
原典は、一次元的に測られる過度に具体的な目標は、局所最適と縦割り意識を生むと指摘しています。
個数だけを追う目標体系は、データが見えるようになっても人を動かしません。

進んでいる領域にさらに足しても、会社の実力は動きません。

揃っている会社は、次の一手を自分で選べる

良い状態は、どこかが突出している状態ではありません。
図の下段のように、4つの領域が同じ高さで揃っている状態です。
設備からデータが入り、それが全部門の見る一つの数字になり、
現場がその数字を見てその場で決められる範囲があり、
データと経験が食い違ったときにデータで確かめる習慣がある。
この4つが揃って初めて、段階4や段階5への投資が効きます。

揃えるときに難しいのは、たいてい文化の列です。
原典には、この列を上げるやり方の例が載っています。
農業機械メーカーが、収穫機の走行経路を最適化するシステムを、農家に無償で試用させました。
長年のやり方を変えたがらない相手に、説得ではなく
自分の目で便益を確かめてもらうという手を取っています。
原典は経路の最適化で収量が最大20%増えうるとしていますが、
重要なのはその数字ではなく、確かめさせる場を先に作ったことです。

技術より先に、外すべきブレーキがある

4つを同時に上げる必要はありません。
原典は、段階を一つずつ積み上げること、
各段階でそれぞれ便益が出るように計画することを勧めています。
全部そろってから成果が出る計画は、途中で力尽きます。

順番については、日本側にも似た指摘があります。
企業活力研究所が中堅・中小製造業6社を調べた研究では、
研究会の委員から「ブレーキをかけたままアクセルを踏んでも進まない」という言葉が出たと記録されています。
同研究は、過去の成功体験や固定観念がブレーキとして残っているとして、
技術よりも先に組織マネジメント面の基盤づくりが要るという立場を取っています。

出典:製造業のDXを阻む壁の乗り越え方に関する調査研究(企業活力研究所・2023年3月・2026年8月20日確認。中堅・中小製造業6社のケーススタディ)

教育も同じ枠に入ります。
原典は、リソースの領域の最初の能力として、
従業員にデジタルの素養を与えることを置いています。
データの意味が分からないまま入力を求めれば、入るのは実態とずれた記録です。
記録が実態とずれていれば、その上のどの段階も成り立ちません

この判定が効かない場合
  • 加工・組立の工程を自社で持たない業種 … 小売・卸・受託事務などでは、設備や治工具にIDを振るという判定項目が当てはまりません。4つのうち1つが判定できず、最も低い領域を探す手順そのものが成り立ちません
  • 経営者に直接提案できる立場にない場合 … 律速が組織構造や企業文化にあると分かっても、決裁権限を降ろす、評価と報告を切り離すといった打ち手は、経営者本人でなければ着手できません。判定はできても、そこで止まります

まとめ

DXに取り組んだのに成果が見えない、という状態は、入れた道具の失敗とは限りません。
自社の現在地を測る物差しを持っていなければ、進んだかどうかを判定しようがないからです。
ドイツで作られた体系は、その物差しとして使えます。

この記事の要点
  • 道具は段階を決めない … RFIDを貼っても、その情報が製造の記録と結びつかなければ段階は上がりません。判定されるのは、導入した製品ではなく、データがどう入り、誰に届き、何を変えるかです
  • 最も低い領域が、その会社の実力 … 設備・情報システム・組織構造・企業文化の4つは互いに依存しています。進んでいる領域に足しても、遅れている領域が全体の速度を決めたままです
  • 担当している機能だけで判定してよい … 判定は開発・生産・物流・サービス・販売の機能ごとに行うものです。工場全体をまとめて測る必要はありません

最初の一歩は、自分が説明できる機能を一つ選び、4つの領域をそれぞれ6段階に当ててみることです。
最も低い列が1つ見つかれば、それが今の投資先です
稼働監視も生産管理システムもAI外観検査も、その列を上げるものかどうかで判定できます。
上げないのであれば、良い提案でも今ではありません。

この判定は、社内で説明するときにも使えます。
4つの列の高さを1枚に描けば、どこが低いか、なぜそこに投資するのかが、言葉を尽くさなくても伝わります。

原典は acatech のサイトで公開されています。
2017年の初版と、2020年の更新版があります。
ただし英語で、日本語の公式訳があるかどうかは確認していません。
中身は、この記事で触れた4領域と6段階の下に、原理と能力の一覧がさらに続く構成です。
自社で使うときは、そのまま配るのではなく、自社の言葉に置き換えてから渡すことになります。

出典:Industrie 4.0 Maturity Index. Managing the Digital Transformation of Companies – UPDATE 2020(acatech・2026年8月20日確認。英語)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次